
風土記の時代からいで湯の里として知られる松江市玉造町。ここは「布志名(ふじな)焼」という焼き物の里でもあります。
布志名焼の起こりは、江戸中期。茶人としても名高い松江藩主・松平不昧公の頃には、藩の御用窯のほか民間の窯も次々と開かれ、不味公好みの茶器が盛 んに作られました。また大正にかけては、国内はもとより海外へも輸出するほど栄えました。現在は4つの窯元が伝統を今に伝えています。

JR玉造温泉駅のほど近くにある「湯町窯」は、大正11年に開かれた布志名焼の窯元のひとつです。建物内には、コーヒーカップや茶器、皿、花器な ど、さまざまな生活の器が並んでいます。地元の粘土を使っており、地元で採れる原石や藁灰から作った釉薬が生み出す落ち着いた黄色や青色が特徴。すべて手 仕事で作られるシンプルな形は、しっくりと手になじみ、日常にすんなりと溶け込みます。

こうした作風は作り手にも影響するのか、3代目の福間琇士(しゅうじ)さんは、親しみやすい人柄。この道48年のベテランにも関わらず、「生活に合った、食卓がにぎわうものを心を込めて作ってるわ」とあくまで使い手のことを考えたものづくりを目指しています。

▲ リーチ直伝の技が活きたエッグベーカー。直火にかけて半熟卵ができる。
中でも「エッグベーカー」は、50年のロングセラー商品。ぽってりとした形がかわいらしく、毎日使いたくなるひと品です。底には、イギリス の伝統的な手法であるスリップウェアで模様が描かれていて、料理を食べ進むにつれてそれが見えてくるのも素敵です。

▲スリップウェアによる模様が美しい

▲リーチが描いた絵皿

▲もてなしにも手仕事の温もりを。
質素な普段使いの品を大切にする湯町窯は、柳宗悦やバーナード・リーチらの民芸運動に強い影響を受けています。昭和初期、幼かった福間さんもこの地を訪れた宗悦やリーチに会い、先代とともに話を聞いていたといいます。
「無名だけど丈夫で使いやすいと言ってほめてくれました。当時は、そうした良さが自分たちも使う人も分からなかったから、随分刺激になりました」。
とりわけ陶芸家のリーチは多くの助言を与えていて、「カップの取っ手は、木から枝が生えるように自然な感じで付けると教わりました。自然だと力強さも出るし、美しさも出ますわ」。今もリーチの精神は確実に福間さんに受け継がれているのです。

▲取っ手についた突起が持ちやすさの秘密
いい器は、日常にほどよい緊張感を与え、それに似合う料理や時間の過ごし方への想像力をかき立てます。お金では買えない、こんなささやかな幸せを手に入れてみませんか。
取材協力
湯町窯/島根県松江市玉湯町965 TEL0852-62-0726
※技あり山陰!歴史・伝統の旅シリーズは、一畑高速バス車内誌「Suki」に掲載された情報を元にウェブコンテンツとして再編集したものです。記事は2008年7月発行時の内容ですのでご了承ください 。










